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『搖年記』（１９９２年１２月８日 ＹＣＣ出版）
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『搖年記』は、横浜市立青木国民学校に通っていたご隠居が
４・５年生の時（１９４２年～１９４３年）につけていた日記
を、ゆりはじめ氏によって本にされたものです。
この中には当時書かれた幻の小説２篇「清き眞心」「無題」
と、自ら作詞作曲をした「戰船」も収められています。
ご隠居ゆかりの地、横浜市神奈川区松ヶ丘とその近辺を、『
搖年記』を手がかりに、すりきれとじゅげむは歩いてみました。
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〔すりきれとじゅげむが歩いた道順〕
東急反町駅
↓
横浜市立青木小学校
（旧 横浜市立青木国民学校）
↓
州崎神社
↓
高島台
（旧 高島山付近）
↓
松沢湯跡
↓
松本通り商店街
↓
ガーデン下
↓
松ヶ丘
↓
神奈川県立横浜翠嵐高校
（旧 県立横浜第二中学校）
↓
神奈川学園
（旧 神奈川女学校）
１９３７(Ｓ１２)年の松ヶ丘周辺
現在の松ヶ丘周辺
〔東急反町駅〕
「夕方おつかひに行った歸りに反町驛までけんちゃんをむかへ
に行ったけれどもまだ歸らなかった。」（一九四三年七月三十
日木曜 晴 ３４．５°起五時二十分 寝八時）本文より
駅舎は地下化工事の真っ最中。改札を出ると片側２車線の国道
１号が走っている。下の写真、突き当たりが松ヶ丘。左へ行く
と横浜駅方面、右へ行くと三ツ沢方面。
〔宮原少年が通った横浜市立青木小学校〕
〔州崎神社〕
「きょうからすさき神社のお祭りなので學校から神社にさんぱ
いをした。」（一九四二年六月六日 土曜 晴）本文より
「午後から藤井君と一しょにすさき様へ行った。おまいりして
から出店を見ながら行ったり來たりして居たら僕の家のおばあ
さんと高木さんのおばあさんがおまいりに行くところに出合っ
た。晩にまたけんちゃんと一しょにおまいりに行った。歸って
來たら午後十時頃だった。とてもねむかった。」（一九四二年
六月八日 月曜 くもり後晴）本文より
反町駅から国道１号に出て青木橋を渡るとすぐの所にある。
御鎮座８１２年。
*本文の中で「神社」は旧字体を使っていますが、「社」は現
在の字体しか見あたらないため「社」を使用しました。
〔高島台〕
高島山公園
高島山公園から青木小学校を望む。真ん中に見えるクリーム色の建物が小学校。
高島山にある別の公園から横浜港方面を望む。当時は港が見えた。
「今日は、午後から青木學校でちょう兵けんさをするので、僕
たちは、學校で體操が出來ないので高島山へ行って體操をした。」
（一九四二年六月三日 水曜 晴）本文より
「兵隊さんのような人がたくさん居て、じゅうのねらひかたや、
けんのつけ方や、じゅうのかまへ方などをやって居た。」（一
九四二年六月五日 金曜 晴）本文より
かつては高島山と呼ばれる見晴らしの良い広い空き地だった。
今は高島台という町名の住宅地になっている。
〔松沢湯跡〕
「夕飯前にみんなで風呂屋へ行った。」（一九四二年八月六日
金曜 晴）本文より
「あのね、松沢湯が空襲でやられてタイルの浴槽だけが残った
の。男女の別もなくなって、それでも松沢湯は営業していた。
僕は、そこで湯気にゆれる女の子の姿を見てドキドキしちゃっ
てさ。そのとき１２歳だったなあ。」（隠居談）
〔松本通り商店街〕
「晩、きよみちゃんはげたを買ひにお母さんと出かけてとても
よい、はなをのきいろい後ろの齒が高くて赤い下駄を買って來
た。」（一九四二年八月四日 火曜 晴 ３３．５°起五時十
分 寝八時三十分）本文より
「午後、お父さんとおつかひに行き、肉や、たばこを買った。」
（一九四三年十二月二十一日 火曜 晴）本文より
〔ガーデン下バス停〕
「家へ歸ったらいそごのおばさんがちょうど歸る所だったので
一しょにガーデン下まで送って行った。むこうに行って少した
ったらバスが來たが満員です通りで、そのつぎにずいぶんまっ
て來たのも満員でそのつぎにやっと來たのはとまったがをばさ
んのほかの人が乗ったらもうぎゅうぎゅうで手すりにつかまっ
てぶら下がって居るくらいで乗れないしあと二三だいうんと間
をおいて來たがみなす通りなので一たん家へ歸って来た。僕が
遊びに行って家に居ない時し電で歸ったそうだ。」（一九四二
年六月二十四日 水曜雨後晴後雨後くもり）本文より
「小学校へ上がる前、母に手を引かれながら道を歩いていると、
私立の幼稚園の制服を着た同年輩の子供が一人で帰って来るの
に出会ってさ、劣等感っていうかそういうのを感じたの。初め
て。」（隠居談）
「ガーデンへもを買ひに行ったら、熱たい魚で、卵をうまない
で、子供をうむといふ、めずらしい、グッピーといふ小さいか
はいい魚が居たので買って來た。」（一九四三年八月十七日
月曜 晴後夕立 ２８°起五時半 寝八時十五分）本文より
「今日も昨日とてもよいと思った、エンゼルフィッシュといふ
熱帯魚をガーデンで買って來た。」（一九四三年八月十八日
火曜 くもり後雨 ２５°起五時四十分 寝八時半）本文より
「ガーデンていうのは、有料の植物園みたいなものでね、その
中に巨大なカゴとかあって鳥を飼っていたり、動物園みたいな
ものもあったの。物心ついたときにはもうつぶれてて、無料で
入れる公園みたいになっていて、花壇があったり、球根を売っ
ていたり、魚を売っていたりそういうところだったの。」（隠居談）
〔生家のまわり〕
「今日は、朝六時に學校へ行ったので體操へ行けなかった。學
校の用事がすんで、自分の家のまはりをはいた。」（一九四二
年八月十四日 土曜 晴）本文より
「家までは、午前中の雨で道がくしゃくしゃで、まるで「ぬか
みそ」の中をあるいて居るやうだった。」（一九四三年十二月
二十四日 金曜 くもり時々雨）本文より
〔松山だった辺り〕
「午後になってから、藤井君と、森山さんの家のシェパードを
運動させにつれて行って、松山で遊んで歸った。」（一九四二
年八月二十日 金曜 晴）本文より
「一帯は松山と呼ばれていたところでさ、松林が広がってたの。
よくここで遊んでいるときに飛行機が頭の上を飛んで行ったん
だけど、ある日空襲があったときはね、隠れるところなんてな
くて、初めて怖さを体験したところ｡｣（隠居談）
今はＪＲや太陽漁業の社宅、郵政事業庁の官舎が建っている。
〔神奈川県立横浜翠嵐高校〕
「今日は、開港記念日で學校が休みなので勉強をしてから藤井
君たちと遊んだ。藤井君の家に大工さんが來て居るので、その
木切れで船をつくったり戰車をつくったりした。午後から二中
へ行って遊んだ。」（一九四二年六月二日 火曜 晴）本文よ
り
宮原少年は１９４５年に県立横浜第二中学校に入学する。在学
中に学制改革により新制高校・県立横浜翠嵐高校になったので、
そのまま同校で高校生活を送る。しかし、途中、肺結核や脊椎
圧迫骨折により休学。卒業したのは１９５５年だった。
〔神奈川学園〕
「今日から夏休みだ。朝早く起きて、ラジオ體操へ行った。松
ヶ丘の廣場へ行ったらだれも來てゐなかった。いくら待っても、
だれも來ないので神奈川女学校へ行ってみた。行きにラジオ體
操へ行くらしい子にあったので、一しょに行った。そうしたら、
今日はやらないというので、がっかりした。」（一九四二年七
月二十五日 晴）本文より
〔歩き終えて〕
『搖年記』の中には様々な風景が出てきます。しかし現在、
市電はなくなって、小学校の近くにあった、「抗戰にをどるオ
ーストラリヤ」や日本ニュース（校外映画学習でみた映画）な
どを上映していた叉楽館という映画館はありません。駄菓子屋
も、松ヶ丘の頂付近にあった松林もありません。銭湯はコイン
ランドリーになっていました。横浜の港が見えて、空き地だっ
たという高島山は閑静な住宅地に変わっています。ガーデン下
というバス停や道路標識はあっても、ガーデンがあった場所は
住宅地に変わっています。
宮原少年は『搖年記』の中で、もっと広範囲に行動していま
す。今回、すりきれとじゅげむの訪ねた場所は松ヶ丘近辺だけ
でしたが、『搖年記』の街は様変わりしていました。
神奈川県藤沢市に、心の病を持つ人々のための福祉作業所カ
フェすばるがあります。ここの特製カレーにご隠居が舌鼓を打
っているようなので、これはみなさまにもお知らせしなければ
と考え、すりきれとじゅげむが取材に行ってきました。
ランチメニュー
●特製カレー（ビーフ、ポーク、なす、じゃがいも)
サラダ、コーヒーまたは紅茶つき ６５０円
＊カレーの特徴
鶏ガラからとったスープに、あめ色になるまで
炒めた玉ねぎ、すりおろした人参、そして２０
種類以上のスパイスを入れ、長時間かけてじっ
くり煮込んだ少しゆるめのルーの手作り本格派
カレー
●日替わり弁当 味噌汁、コーヒーまたは紅茶つき
６５０円
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ランチタイム １１：３０～１３：３０
ティータイム １４：３０～１６：３０
定休日 土・日・祝日・第１・３月曜日
所在地 藤沢市南藤沢７－１０ 英邦第一ビル２Ｆ
（ＪＲ藤沢駅南口徒歩３分）
URL http://subaru251.tripod.co.jp
なすカレー
こくがあってまろやか。ちょっと辛いけど、 辛さが強すぎない。
量も多い。お得感あり。（す）
日替わり弁当
（若鶏の照り焼き、薩摩揚げの煮物、レンコ ン のきんぴら、
大根サラダ、漬け物）見た目 の照 りが食欲を誘う。肉はやわ
らかい。（じゅ）
【ご隠居談】
今は前の歩道に店名の幟が三本はためいているのでホッとし
ています。初めて訪れた時には、二階の窓の片隅の色付きガラ
ス越しに小さな看板が、必死に探せばやっと見つかる程度に見
えるだけで、「きっと、あんまり美味しいんで、なるべく他人
に食わせたくないんだな」と勘ぐったくらいでした。
【カフェすばる 運営委員長 柳谷あき子氏に聞く】
──ご隠居はこちらのカレーがおいしいって言っています。
「時間をかけてじっくり煮込んでいるんです。ここをするよ
うになってから、私は家でカレーを作らなくなっちゃった。」
──何人くらい参加しているんですか？
「作業所って言うのは人数の決まりがあって、ここはＣラン
クって言うんですけど、１０人から１４人。Ｂランクって言う
のが１５人から１９人。Ａランクって言うのが２０人以上。そ
れだけ通ってくるメンバーがいないと作業所っていうのは認め
られてなくて、うちはカフェと工房で１４人、１４人。Ｃラン
クぎりぎりです。」
──工房のほうでは何をしているんですか？
「メインは看板で、そのほか横断幕やのぼり旗を作っていま
す。」
──需要はどれくらいありますか？
「一般の企業の半額以下で、出来上がった物はかわりないか
ら需要はあります。看板屋さんと同じ機械を使ってるし、駐車
場の看板だとそんなにデザイン製のあるものじゃないので。」
──今後はどういうかたちにしていきたいですか？
「すばる工房を作って７年目に入って、カフェすばるのほう
が２年目に入ったでしょう。今後は作業所じゃない仕事を作ろ
うと思って。
こういうところを一般的に中間施設って言うんですけど、病
院から出て社会復帰するまでの間の中間施設っていう言い方を
するんだけど、私は、もう一つ中間施設になるような場を作ろ
うかなあと思ってるんです。作業所が社会復帰を目指してるよ
うなら大丈夫なんだけど、ここが最終的になってしまって社会
復帰なんてできうる状況じゃなくてっていう作業所はいっぱい
あるんですよ。世の中、薬飲みながら普通に働いてる人なんて
いっぱいいるんだから。
だから、仕事の場を作りたいと思ってるのね。うちみたいに
働く意欲のある人がいっぱい来ているところは、仕事を確保し
て上げる方がいのかなっていうのが今の私の考え方なんです。
パソコンできる人だっていっぱいいるんですよ。
本当は、こういう作業所は必要ないと思ってます。みんなが
普通の土俵で働けるのが理想だと思ってるんですよ。」
店内では工房で作っている“すばるブラッシュ”を販売。す
ばるブラッシュは１コ１９０円。その他、絵画展を行うことも
ある。
駅から続く線路に沿った商店街を歩いて行くと国道４６７号
線を越える橋にさしかかります。そこで右下を見ると、国道の
道端にカフェすばるののぼり旗がひらめいています。（国道へ
降りるには薬局横にある灰色の階段を使います）
ビルの２階にある店内は、日当たり良好、清潔、家庭的な雰
囲気です。スタッフは笑顔と丁寧なもてなしで、私たちを迎え
てくれました。（じゅ）
取材日１０月２９日
かねてから上がっていた企画で、ちょっと恥ずかしいような
企画なんですが、それを今月のといっても半端な日にちですが、
ご隠居にかなりゴーインにお願いして記事にしました。まあ、
簡単にいえば、すりきれとじゅげむが、ご隠居のカバンを開け
ちゃう、それで写真も撮っちゃう、そのうえ、これなにあれな
にと訊く。という、ちょっと上品さにかけるがおもしろさには
自信があるという代物です。そもそもことの起こりは、『セン
セイの鞄』（川上弘美）の読書会を横浜文学学校でおこなった
あと、我々の先生のカバンの中身はと、誰かが言いだしたこと
にありました。それからは密かにご隠居のカバンには熱い視線
が注がれるようになりました。もう見たい、絶対見たいと騒ぎ
が大きくなっていくなか、ではやりましょうと決断を下したの
でした。
では、この間のやり取りを実録でご紹介します、不本意です
が、私としては。それに続いて、打ち合わせ風景も、録音した
というので、記事にすることにしましたが、これは悪夢のよう
です。まるで、すりきれはフカのようで、ご隠居は白うさぎの
ようです。もしや、もしやですが、じゅげむは大黒のつもりで
は････あるまいと思うがしんぱいだなあ。蝦蟇の穂綿なんか干
しているんじゃあるまいか、ブリブリしながら。（す）
すりきれ ご隠居そのカバンの由来みたいなものちょっと教え
て下さい。
隠居 まずね、僕の前に愛用していたカバンは、誰か書いてた
なあ、女性用だって。
じゅげむ Ｓさんです。
隠居 そうなんだろうと思うんだけど、あの、とにかく非常に
コンパクトでね、ポケットが多くてね、小物がね、分けて入れ
られてすごく良かったですよ。ところがね、肩関節周囲炎を起
こしまして、つまり五十肩、七十でもね。それで、今までは、
文学学校の時に他のカバンを下げてリュックをしょって二つも
持ってきてたわけなんだよ。ところが、もうね、手で提げらん
なくなってしょわなきゃならないから、ちっちゃなのには教材
がはいんないわけよ。だから、もうちょい大きいヤツに代えた
わけ。ところがこれがね、早い話がさ、ガッサイ袋なんだよ。
すりきれ ガッサイってどうゆう字書くんですか。
隠居 え････サイってどうゆう字だっけ？ あの、一切合切の
合切ですよ（と紙に書く）。
すりきれ 一切合切の合切と。
隠居 それでね、入れると全部底にたまっちゃうわけ。それで
ね、中で混ざっちゃうわけね。それでもう、非常に使いにくい
んだけどしかたなしにそれをしょっていたらば、女房が、見か
ねまして、「どうせあなたもうね先が長くないんだから、あと
一回位きりカバン買ってあげるチャンスもないだろうから」っ
て言って買ってきてくれたわけよ。そしたらこれがまたね、い
いんですよね。あの（カバンに手を入れる）教材がすぽっと入
るでしょ（と言いながら、Α４サイズの白い透明のファイルを
出す）。
すりきれ （うんうんうんうんと頷く）
隠居 その他に、これがね、ここに一つあるわけよ（前方の縦
あきのファスナーを開く）。ねっ、ここにさ。ここにあるわけ
ね。それからさ、ここにあるわけよ（前方の横あきのファスナ
ーを開く）。ねっ。ここは眼鏡とか入れられるでしょ。それか
らさ、ここにあるわけよ。ここにね（背中のファスナーを開け
る）。ここに財布を入れるわけ。しょってれば、絶対にすられ
ない。で、こうやってやると、ここがあるわけよ。これが。こ
こにあのね、あれ！（突然そわそわとあわてだす。しかし動き
はゆっくり）ないよ！（と左右を見回す）どうした････あっ、
（ソファの上に置いていた黄土色の手帳を見つけて手にとる）
あははは････
すりきれ ああ手帳ね。（ほっとした様子）
隠居 手帳ここに入れますでしょ（手帳をしまう）。それで、
大物はこの中に（カバンそのものの中）がばっと入れるんだけ
ど、それでも足りないときには、こういう物を用意して（ビニ
ール製の透明な小物入れ。形は長方形。網が入っていて、破れ
ても中身がこぼれないかなり頑丈な作り）みんなここにぶちこ
むの。それで、ここに入れて、出せばいいわけでしょ（前方に
ある縦あきのファスナーからビニール製の袋を出し入れしてみ
せる）。ねっ！
すりきれ じゃあ、申し訳ないんですけど、ここに並べてもら
えますか？
隠居 あははは････いいですよ。これはいいでしょ（レジ袋に
入ったビールの空き缶。モルツ）。行きがけにあのちょっと、
あの、あんパンとビールを飲んで････今日ね、いつもはね、あ
の、途中でさ、そば屋へ寄ってそばを食べて来るから、こんな
ことはないけどさ････あははは････
すりきれ （黙って出された物を次々並べる）
隠居 これが、教材でしょ････これがねウインドブレーカーで
しょ････広げるの？ 丸まってるところがいいんじゃないです
か。
すりきれ （独り言を言いながらウインドブレーカを広げる）
隠居 （広げられたのを見て）僕らしくないよ。帽子････回数
券････筆記用具････ボールペンの替え芯（くれたけ製）････眼鏡
が２つ････財布････手帳。
じゅげむ （笑いながら並べるのを手伝う。幾度か並び替える。
さらに並び替える）
隠居 こんなことなら缶は捨てて来るんだったよ。（呆然とじ
ゅげむの持っているビールの空き缶を見ている）
すりきれ ふふふ、撮影のことは昨日ＦＡＸでお知らせしまし
た。
すりきれ じゃあ、しまいながら、お話をうかがいますけれど、
このカバンはどのくらいの重さですか、前に持たせていただい
たときには、五キロ以上はあるという感じでしたが。
隠居 この頃は軽いの。
すりきれ 前に、ご隠居のカバンは動く書斎って言われてまし
た。
隠居 そうそうそうそう。そのときにはね、スパナまで入って
いたんですよ。何で入っていたのか、自分でも覚えていないん
だけど、人を叩くために入れといたんじゃないんですけどね。
すりきれ あははは。
隠居 それでね、帽子が二つも入ってたこともあって、入れて
ね、そのままうちに帰って出すの忘れて、その次の日に探して
も見つからないから仕方なしに別の帽子をかぶって行って、こ
こに入れて、そのまままた忘れて、出先でないないって言って、
あきらめて帰ってきたらば、ある日ふとみたら、こん中に帽子
が二つも入ってたんですよ。
すりきれ 先生は家に帰ってカバンの点検とかはなさらないの
ですか？
隠居 絶対に開けないっていうかさ、めんどくさいから。
すりきれ そのまま次の日出かけちゃう？
隠居 そうそうそうそう、そのままあの、で、もちろん、文学
学校から帰れば、教材は出しますよ。だけど、それ以外はこの
ままどこにでも、二階にあがるときもこれもって上がるの。
すりきれ 家でも手放せない？
隠居 つまりまさに歩く、移動する書斎っていうか、だから、
初めて来るお客さんがね、俺がちょっと二階行こうと思うとさ
「あっ、お出かけですか？」って言うんだよね。
じゅげむ 食事するときも肌身離さずですか？
隠居 そうですね、これを椅子の腕に引っかけて。
すりきれ えっ、うちで？ ご飯食べるときも？
隠居 うん。
すりきれ だってご隠居んちの食堂って一階でしょ？
隠居 うん。
すりきれ ただいまって帰ってきて二階に上がるじゃないです
か、それでこんど下に降りてくるとき、またこれ持って降りて
来るんですか？
隠居 うん。
すりきれ これはもう一心同体････。
隠居 眼鏡と同じなんですよ。つまりこれがないと眼鏡が変え
られないから、ほら、カバンの中に、眼鏡もいろいろあったで
しょ。近いのとか遠いのとか、なんか、もうひとつもあったし。
すりきれ でも、これはかなりい、い、異様なことですよね。
隠居 異常ですか？
すりきれ たぶん。。。。。
隠居 まあ、いつでも夜逃げができるっていう利点はあります
よね。
すりきれ うんうんうんうん････（頷く）。でも、うちの中で
もいつでも････お風呂に入るときは？
隠居 あはは、それはちょっとね。
すりきれ そういう場合はどこに？
隠居 一階に居れば一階に置いておく、二階に居れば二階に置
いておくと。
すりきれ お休みになる部屋は二階ですよね。
隠居 そうそう。
すりきれ そのときは枕元に？
隠居 もちろん、枕元っていうか、ベッドの脇の床の上に置い
ときます。
すりきれ 先生、昔、あの風呂敷に包んで原稿を持って歩くと
いう話ありましたよね。『私小説家の私事』という小説の中で、
書いていらっしゃいました。
隠居 あれ以来進歩したんですよ。風呂敷からバッグに。
すりきれ でも中身が違うじゃないですか。あれは見られちゃ
困るから持って歩いてたわけでしょ。
隠居 あははは。そうそう、うん。風呂敷は原稿だけ。今のと
ころ原稿はバッグの中に入れません。
すりきれ 入れてない？
隠居 あのね、入れるほどの原稿がないから。フロッピーで済
んじゃうのよ。
すりきれ そのフロッピーは肌身離さずですか。
隠居 フロッピーは持って歩かないですね。
すりきれ じゃあ、昔とは違うんですね。
隠居 風呂敷とは用途が違うの。
すりきれ ご隠居、このカバンは、いついただいたものなんで
すか？
隠居 これはまだ非常に新しいですよ。もう早くも汚れちゃっ
たけれども、まだひと月くらいですよね。
すりきれ おニュウじゃないですか。
隠居 おニュウです。それまでは、合切袋に入れて不便だった。
すりきれ 黒いのの次に合切袋があって。
隠居 合切袋も黒だったんですけども････
すりきれ かわいい黒いやつ（女物といわれていたカバン）が
合切袋になって、これになったんですね。
隠居 そうです。
すりきれ で、その合切袋は今どんな状況になっているんです
か？
隠居 二階の本箱の脇の床の角に、なんか死骸のようにくたば
ってますね。
すりきれ それはもう使い道がないんですか？ それとも、何
か思い出のあるものなんですか？
隠居 いや、思い出なんかにはならない。不便な思い出しかあ
りませんよ。
すりきれ じゃあそれは大事にとっておいて、このサイトの一
万人目のお客様の時にご愛用いただくプレゼントにどうでしょ
うか。
隠居 あははは、ご不便用の合切袋としてね。
すりきれ ところで、今使っているのはどこでお求めになった
のですか。
隠居 これは東急ハンズじゃないかな。確かそうだと思ったよ。
そんなこと････（といいながら、カバンのどこかに書き込みが
ないか探す）
すりきれ ご隠居、お連れ合いは、自転車で買いに行くんです
よね。
隠居 そう。それでね、今ね、女房が、これ非常に汚れやすく
って、あなた汚しやすいから、同じタイプで黒があったんだっ
て、だからね、黒を買ってきて、これあなたの方にまわして、
これを私が使うと言いつつも、それをする暇がないうちにだい
ぶ汚れて来ちゃったねえ。
すりきれ う、うーん、ちょっと、というか結構汚れてます。
隠居 うん。もう手遅れだね。
すりきれ ちょっと失礼します。あっ全然軽いですね。でも、
この軽さになにか感じられますか。それで、済んだのですか、
こう気分とか、気持ちとかは。
隠居 だからね、肩関節周囲炎で整理したの。この半分くらい
出ちゃったから、出ちゃったけど、もったいないっていうかさ、
それはそれでいろんな意味があるから、別の袋に入れて、いつ
も身辺に離さず持ってるわけよ。離さず持ってるってわけじゃ
ないな。だから、前はそれも一緒になって担いでたわけよどこ
へ行くにも。
すりきれ 別の袋もあったんですか。
隠居 いや、あったんじゃなくて、今度生まれたの。
すりきれ 分割されたという感じよりも、生まれたという感じ
なのですか。
隠居 うん。整理したことによって、もう一つのケースが生ま
れたの。あの、入れ物が。
すりきれ 秘密なんですか？
隠居 秘密じゃないんだけども、本来はこの中に入っていたち
ょっとした････
すりきれ それは具体的になんですか？ ここまでは理解でき
たけど････
隠居 たとえば、診察券のカバーとかね、健康保健証のケース
とか、お薬手帳なんていうのもあるのね、いろんな病院からお
薬もらうでしょ。だから、もうスパナなんていうのはあっちの
方に回しましたし。。。
すりきれ 先生、手紙とかはないんでしょうか。
隠居 手紙と言うよりね、依頼書とか、何なんだろうねあれ。
すりきれ 依頼書って原稿依頼の？
隠居 うん。一番････ああ、そうだ、携帯の傘とかね、一頃は
携帯の折りたたみ傘が入ってた。
すりきれ タオルは？
隠居 タオルね････タオルは毎回変えますよやっぱり。何なん
だろうね一番かさばるのは
すりきれ 本っていうのは？
隠居 本は一冊だと心配だから二冊以上ね、必ず担いでて、一
行も読まずに持って帰ってくるっていうのは普通の状態。強迫
的に持って歩く。今日は無かったね。そういえば、入れ忘れた
んだ。入れるつもりでね、入れ忘れたの。ちょっと格好のいい
やつを選んで入れようと思って、そういうヨコシマなこと考え
るから忘れたの。あははは。
すりきれ （やっぱりと思う）
じゅげむ （にこにこしている）
あとは打ち合わせ生録で、まあ、年末年始の予定というか、
そう言うことをお知らせします。しかし、あまりに生すぎて、
人格を疑われそうな部分は自己検閲して、お届けします。
【その１】
すりきれ ご隠居、あとですね、またあの「月だより」ですけ
ど、あれは月記なのでツイタチに更新したいので、えーっと二
日前くらいにはできるとうれしいんですが････。
隠居 はい、あの、もう一応ね、こんな風に書いてあるの。ね
え（と手帳を広げて見せる。そこには、予定日に締め切りと書
いてあった）
隠居＆すりきれ （顔を見合わせて笑う）
すりきれ でも、これ書いただけじゃ････
隠居 書いただけなんだ。あはははは
すりきれ （不信気な顔をしながら笑う）
隠居 書いただけでも誠意あるでしょ（まだ笑っている）
【その２】
すりきれ 十二月はクリスマスのプレゼントに例のアレを独唱
していただくっていうのはどうですか？
隠居 なに？ アレって
すりきれ ほら、あの、えーなんだったっけ、原文で、えーと、
なんだったっけ、“ワルシャワ湖のほとり”じゃなくて
隠居 バイカル湖だよ。あははは････
すりきれ ふふふ、バイカル湖だった（はずかしそうに）
隠居 なに？ そんなの入るの？ えっ、ホームページで流れ
るの。
すりきれ うん。流れるの。ねっ。
じゅげむ （こくこくと頷く）
隠居 ふーん、へえーっ。
すりきれ それで、もし失敗したら大利根月夜でもいいけど、
やっぱり先生のロシア語での、バイカル湖を贈りたいのですけ
ど、クリスマスプレゼントで、皆さまに。
隠居 ふふふふ。
すりきれ ふふふふ。
隠居 何でもやります。
すりきれ （頷く）
じゅげむ スタジオを押さえなければ。（なにやら手帳を見る）
隠居＆すりきれ（無言で顔を見合わす）
【その３】
すりきれ 十一月の企画記事ですが、この前ご紹介いただたカ
レーショップを取材させていただきます。
隠居 いいですよ、うんうんうん。
すりきれ ご隠居お奨めということで。
隠居 うん。お奨めですよ。
すりきれ そうしたらそういう感じで私とじゅげむが行って、
じゅげむはカレーが食べられないそうなので、気の毒だけれど。
隠居 二つあるんですよ。二品っていうのかあ、ランチみたい
なの。お弁当････とにかく二種類あるの、だから、もうひとつ
の方を食べなさいね。
じゅげむ はい。
隠居 それがね、ショップの店長さんね、あの方ね、僕が独身
の頃ね、今の女房の妹さんと一緒にね、俺の六畳一間のアパー
トにね、三人くらいで、
すりきれ 今の女房の妹さんと三人で暮らしてた？
隠居 ちょっと！ 暮らしてないですよ！ もう一人と一緒に
三人でなだれ込んできて、うちの六畳間がね、解放区みたいに
なっちゃって、それでなんかみなさん入り浸ったりね、出たり
入ったりして、なんだかもう駅前広場みたいになったけど。
じゅげむ 『はりがみ』ですか？
隠居 ああ、そう『はりがみ』。『はりがみ』の舞台。あすこ
に三人でなだれ込んできて、あの人ね、まだ大学一年生くらい
だった筈だけどがんがん酔っぱらってね、それが初対面だった
んですよ。
じゅげむ 『はりがみ』の舞台が初対面の場所だったんですか？
隠居 そうそうそう。で、酔いつぶれちゃって。まあ、そんな
ことはどうでもいいんだけど、あははは････
じゅげむ 今はカレーショップのママというか････
隠居 うーんと作業所の････
すりきれ 作業所運営のカレーショップの店長さんでしたよね。
では、しっかりと、取材してまいります。
【その４】
すりきれ 来年のことで鬼も笑うかも知れないけれど、一月の
予定も今かなり決めておきたいです。一月は新春対談で、これ
ついては、ご隠居、どなたかと対談したいっていう方はいらっ
しゃらないですか？
隠居 対談ね、うーんと。うーんと。
すりきれ じゃあ、これはちょっとセッティングをするのはお
願いしてもいいですか。ご隠居になにかご提案があれば、うか
がいます。
隠居 とっさにまったく思いつかないですけど、考えさせて下
さい。時間的に。
すりきれ はい。それでね、新春対談なんだけど、あたしテー
プおこしたり、本当のこというと一ヶ月くらいかかっちゃうん
ですよ。下手だから。だから、逆算すると、遅くとも十二月の
頭には、もしくは十一月の末くらいには対談にこぎ着けたいの
です。だからそういう感じでちょっとよろしくお願いします。
隠居 はい。十一月の末ね。
すりきれ はい。
いやあ、次々とじゅげむが仕事を、間違いました企画を提出
するので、ご隠居もすりきれも、よろよろしながらがんばる予
定です。ところで、一月には「春の唄遊び」を企画したらいか
がであろうか。公募もよいし、句会もよいかも知れない。なに
せ、ご隠居学はうんちくをたれながらも、一生懸命に遊ばなけ
ればならないのだから、ふふふ、楽しみである。
１０月５日（土）、藤沢市民会館第一レセプションホール
において“うたごえ喫茶 復刻版 ロシア民謡の夕べ第４回”
が昼と夜の２回にわたって開催されました。
絵：宮原青子
主催 湘南うたごえ喫茶実行委員会
後援 藤沢市民会館サービスセンター
江ノ電新聞社
総合司会 柳谷あき子
歌の指導 長坂克己
アコーディオン 横山太郎
（新宿ともしび往年のリーダーコンビ）
ゲスト 乃羽バレエ団
チムニーズ
ゴールデンノーツ
オープニングには、歌集に描かれているコスチュームに身を
包んだ乃羽バレエ団が登場
ゴールデンノーツとチムニーズ
曲目
ともしび
バイカル湖のほとり
カリンカ
コサックの子守歌
ご隠居の開会スピーチ
「ロシア民謡は青春のうた。こんなに声を張り上げてうたえ
るところは他にありませんよ・・・・」
参加者全員で合唱
曲目
カチューシャ
雪山賛歌
おお牧場はみどり
気のいいあひる
禁じられた遊び
しゃれこうべの歌
草原情歌
かあさんのうた
めだかの学校
北帰行
もずが枯木で
北上夜曲
あざみの歌
山のロザリア
長坂克己さんの独唱
曲目
ステンカ・ラージン
郵便馬車の馭者
道
参加者全員で合唱
曲目
トロイカ
仕事の歌
囚人の歌
バルカンの星の下に
ともしび
黒いひとみの
泉のほとり
モスクワ郊外の夕べ
カチューシャ
２１時２０分 盛況のうちに幕が閉じました。
来年も開催します。どうぞお楽しみに！
追記
ロシア料理メニュー
ニシンの酢漬け
ルシアンサラダ
ビーフストロガノフ・ロシア風
空豆ピラフ
ピロシキ
キャビア
ボルシチ
羊飼いのパン
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