例えば、貴方が外国へ行ったら、知らない人には「私は日本人です」と自己紹介するでしょう。でも日本では、人に逢ったとき、いちいち「私は日本人です」とは言いませんよね。
同じように、例えば「アメリカンドッグ」(ご存知のようにソーセージを串に刺して衣を付けて揚げたもの)は、アメリカではアメリカンドッグとは呼ばれません。
ではなんと呼ばれているでしょう?
そのこたえは「コーンドッグ」です。
同じような例として、
「薩摩芋」は、薩摩(鹿児島県)ではなんと呼ばれているか?
それは「琉球芋」です。
琉球からもたらされたからでしょう。
では、それは琉球(沖縄県)ではなんと呼ばれているか?
「唐芋(カライモ)」と呼ばれます。
沖縄には、それは唐(中国)から渡ってきたのでしょうね。
では、中国ではそれは何と呼ばれているか?
「甘藷」です。
薩摩芋は中央アメリカ原産ですから、中国にもどこかから渡ってきたのでしょうが、いちおう名前の先送りはここで終了です。
ところで、「フレンチトースト」というものがあります。パンをミルクやハチミツやなにかに浸してフライパンで焼いたものですね。
これは日本だけでなく、アメリカでもヨーロッパでも、やっぱりフレンチトーストと呼ばれているようです。
でもこれは当然フランスでの呼び名ではありません。フランスではパン・ペルデュと呼ばれます。これは「無くした、無駄なパン」という意味だそうです。つまり、古くて堅くなって食べられなくなったパンを再生して食べられるようにする手段だったのです。日本でも、残り物のご飯をオジヤにしたり、ご飯蒸しで蒸して食べるようなものですね。けっこう、フランス人は倹しいところがあるのでしょう。でも、そういう食べ方はドイツやイギリスではしなかったのでしょうか? いや、ちゃんとやっているからこそ「フレンチトースト」という呼び名が各国で共通語になっているのでしょう。それを「イングリッシュトースト」とか「イタリアントースト」と呼ばずにフランスにおっつけるところが、なんだかセコイですね。
同じような例として「アメリカンコーヒー」というものがあります。薄めたコーヒーをそう呼ぶようなイメージがありますが、実はこれは液の抽出の仕方ではなく、豆の炒りかたの違いのようです。
つまり、豆を極めて浅く炒って、挽いて淹れたもので、苦味が薄く酸味が強い柔らかな味ですが、中身はむしろ濃く、タンニンやカフェインは深炒りのものより多いそうです。
だから、アメリカンコーヒーは、薄めたコーヒーではないのです。
ところで、アメリカンコーヒーは、アメリカにはありません。そういう名前がないだけではなくて、それに該当する類のコーヒーがないのです。
アメリカンコーヒーとは、どうやら日本で生み出されたものらしいのです。
それまで、男性専科のようになっていたコーヒーを、なんとか女性にも愛好者が増えるようにと、苦味を抑えるために深炒りを避け、生の豆に近いソフトな味を目指して、ごく浅い炒りのコーヒーを開発した或るメーカーが、これを(勝手に)アメリカンコーヒーと名づけて提供したのが始まりだったのだそうです。
アメリカでは、むしろ、コカコーラが普及して以来、すっかり売れ行きが落ちたコーヒーのシェアをなんとかして回復するために、逆に従来のものより苦味を増し濃さも増してインパクトを強める方向へと向かっているのです。つまり、アメリカは反アメリカンコーヒー方向に向かっているのです。
だから、アメリカンコーヒーとは、日本生まれの日本人向きのコーヒーのことなのです。
しいて外国で通用するように呼ぶならば、単なる「浅炒りコーヒー」でしょうね。
ちなみに、一般に世界でいちばん薄いコーヒーを飲んでいるのは日本人だそうです。
地名の付いた品物としては、ほかに「南京豆」もありますね。
これも、江戸時代初期に南京(当時の日本での中国の呼び方の一つ)から渡来したからでしょう。
南京(中国)ではこれを「落花生」と呼びます。
これは南アメリカ原産ですが、アメリカでは、これをピーナツと呼びます。
これは日本でも三つとも通用している名前だから、今更面白くも無い。
ついでながら、日本では「落花生」というと殻付きのものを指し、「ピーナツ」というと殻を剥いてバターや塩で味付けしたものを指すことになっているそうです。殻付きは中国、味付きはアメリカ、というわけですね。それぞれのお国のイメージが、そういう感じになっているのでしょうかね。
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