まえに、野菜についてウンチクの一端を記しましたので、果物も取り上げないと不公平になると思いまして……
私たちは果物というと、まずエデンの園のリンゴを思い出してしまうので、無意識にいちばん古い果物はリンゴだろうと思い込みがちですが、どうやらそうではないらしい。
だいたい、聖書にはエデンの園でアダムとイヴが蛇にそそのかされて食べたのはリンゴだ、なんてことはどこにも書いてないのだそうですね。
そこには、ただ「善悪の知識の木」の実、としか書かれていなかった。
それが、勝手にリンゴになってしまったのは、実はミルトンが西暦一六五八年に「失楽園」でリンゴだ、と書いたからだそうです。
ですから、一七世紀以前にはアダムとイヴが食べたのはリンゴではなかったのですね。
それでは、リンゴでなかったら何だったのか、というと、これが諸説があって、はっきりしない。
ともあれ、世界の文献に歴史上最初に記された果物はなにか?
それはイチジクです。リンゴではないのです。
旧約聖書に現われる最初の果物はイチジクだそうです。
リンゴといえば、エデンの園の次に思い浮かぶのは、ギリシャ神話の、互いに美を競う三女神に、不和の女神エリスが、「一番美しい者に」と言って渡し、トロイ戦争の発端になった黄金のリンゴですね。
しかし、リンゴはギリシャ地方の原産ではなく、せいぜい紀元前八〇〇年代になってから登場した新参者ですから、トロイ戦争の頃にはギリシャにはリンゴなどは知られていなかった筈だということです。
リンゴはギリシャではなく、古代ゲルマン民族の果物でした。
では、ギリシャ古来の代表的な果物は何か、と言えば、それはブドウでした。ギリシャ神話ではブドウ酒の神デュオニソスもよく知られていますね。
そして、メソポタミヤ地方古来の果物はナツメヤシです。
ついでながら、日本民族古来の果物は、といえば、それはモモだそうです。まえにこの欄にも記したことがありますが、モモつまりピーチの語源はペルシャで、古来イラン原産と思われていたが、その後実は原産は中国だと判りました。ともあれ、モモは古くから日本に渡来していたようです。桃太郎の民話などが生まれたのもそのせいなのでしょう。
ところで、あなたは果物と野菜の区別がつきますか?
私は野菜ジュースの愛好者なのですが、スーパーでいつも野菜ジュースとフルーツジュースの区別に難渋します。最近は野菜とフルーツをミックスしたジュースが増えて、ますます区別に難渋するようになりました。
なにもそんなに厳密に区別して飲まなくてもいいじゃないか、とおっしゃる向きも多いと思いますが、私はあくまでも野菜ジュースが飲みたいので、フルーツジュースでは困るのです。ミックスも厭なのです。なぜかと言われても困ります。好みですから。
試みに、「果物」の定義を調べてみました。
農林水産省によると、果物とは「食用になる果実」のことだそうです。
でも、一般には、食用になる果実のうちの「甘味を有するもの」を果物と呼ぶのだそうです。
それに対し「野菜」の定義は、「水分の多い草本性で食用になる植物」で、食べる部分は「葉」や「根」、「茎(地下茎を含む)」、「甘くない実」だそうです。
なるほど、私が野菜ジュースを好むのは、「甘味を有する果実」が含まれていないからなのですね。
ところが、私がうっかり買ってしまい、後悔する「野菜ジュース」の中には「甘味を有する」ものがけっこうあるのですね。そんなヤツの原料表示を見直すと、大抵「カボチャ」か「サツマイモ」が入っているのです。サツマイモは果実じゃないから仕方が無いとは言いながら、これらが入ると、私の感覚ではまるっきりフルーツジュースになってしまう。ですから、最近はただ野菜ジュースという表示だけでは安心せず、綿密に原料表を点検しなければならないのです。
ところで、みなさん、イチゴは野菜ですか果物ですか?
スイカは? メロンは?
農林水産省によりますと、イチゴもスイカもメロンも、野菜なのだそうです。
これらは、「果物的野菜」というカテゴリーに入っています。
冗談じゃないよ、イチゴジュースがなんで野菜ジュースなんだ! と私が怒っても、どうにもなりません。
みなさん、ギンナンは野菜ですか果物ですか?
クルミはどうですか?
ギンナンもクルミも甘くないですね。
でもこれらは果物なんですよ。
「殻果」という分類に入る果物なのですよ。
私などの感覚では、甘いのが果物で、甘くないのが野菜だ、と思っていたのですが、どうもそうでもないらしい。
イチゴやスイカは野菜だし、ギンナンやクルミは果物なのです。
だから、甘い野菜ジュースがあっても、甘くないフルーツジュースがあっても(いまのところまだお目にかかっていないけれど)、不思議ではないのかも知れません(でも、困るなー)。
困りついでに、もう一件。
ヴェジタブル(野菜)とヴェジタリアンとは語源が違い、後者を菜食主義者と呼ぶのは「誤訳」なのだそうです。
ヴェジタリアンの語源は「生命力のある」という意味のラテン語の「ヴェジタス」で、従ってヴェジタリアンとは「活力のある人」と訳すのが正しいのだそうです。
菜食主義者というと、野菜ばかり食べている人、という意味になってしまうが、ヴェジタリアンとはそうではなくて「肉を食べない人」なのだそうです。
明治維新以前の日本人は、その意味ではほぼ全員が「ヴェジタリアン」でした。
(ヴェジタリアンとは総称で、その中には菜食主義者もいるし、ミルクや卵は食べる人もいるし、魚は食べる人もいて、昔の日本人はその第三グループに入るわけですね)
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