隠居のうんちく



 
                         赤い実を食べた

                               

 赤い鳥小鳥……
 という唄を散歩するたびに思い出す今日この頃です。あちこちに赤い木の実草の実がよく目につく季節です。
 クロガネモチの実、ハナミズキの実、マユミの実、サンゴジュの実……。
 そんな赤い実たちは、秋が深まり冬が訪れるまでの間に、いつの間にかすっかり姿を消してしまいます。
 いったいどこに行ってしまうのでしょうか。そんなことは判りきっています。みんな小鳥のお腹の中に消えてしまうのです。
 ところで、いろいろな実が姿を消す順番に気が付かれたかたは居られますか? あんまり居られないでしょうね。
 隠居も今まであんまり気が付きませんでしたが、気のせいか、どうも人間の珍重して観賞する実ほど早く無くなるような気がしませんか?
 万両の実なんか、うっかりしているとすぐになくなってしまう。
 最近知ったのですが、どうやらあれは美味しい順に姿を消すらしいのです。美味しいと言っても、小鳥にとって、ですよ。言われてみたら当り前なことで、別に小鳥が人間への嫌がらせに人が愛でる実を先に食べる筈もない。
 万両の実の次に無くなるのは千両の実のような気がしますが、千両の方がいくらか味が落ちるのだろうか? やっぱりあのネーミングは、そうした味の格差から発しているのでしょうかね。
 余談になりますが、万両、千両、のほかに、百両、十両、という名の植物もあるのですね。百両とは「カラタチバナ」の別称で、十両とは「ヤブコウジ」のことだそうです。ひょっとしたら、これも味の順なのかしら?
 赤い実のうちでいちばん後まで残っているのは何か? それはみなさまお気づきと思いますが、ピラカンサですね。赤い実、というと真っ先に思い浮かぶのがピラカンサですが、それは一つにはいちばん永い間我々の目の前に存在し続けるせいかも知れません。
 要するに、ピラカンサはいちばん不味いのです。だからいちばん後まで残っているのです。どんなに不味いかと訊かれても私も食べたことがないから判りませんが、きっとよっぽど不味いのでしょうね。我々の食材の中にも、毒ではなく栄養もあるけれど不味くて厭だというものがあるでしょう。各自それを思い浮かべて頂きたい。
 現に、冬になって小鳥の食料が底を突くようになると、ピラカンサはいつの間にか姿を消してしまいます。だからちゃんと食べられるのは確かなので、小鳥にも生意気なことに味覚が備わっているのですね。
 私が食糧難の時代に米が底を突くと、ため息をつきながら芋を食べていたようなものでしょうか。
 これまた余談になりますが、ピラカンサとはトキワサンザシ属の総称であって、オレンジ色の実を付けるのが「タチバナモドキ」、赤い実を付けるのが「トキワサンザシ」だそうです。隠居の見るところ、両方とも同じくらい不味いようですね。
 ちなみに、ピラカンサとは、ギリシャ語で「火とトゲ」という意味だそうです。

                               

 
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