隠居のうんちく



 
                         『十二単』の追加

                               

 オフィスワーク、あるいは家事が一段落した時、みなさんだったらソファかなんかでちょっとくつろぐところを、平安時代の女官たちはどうしたか、といえば、どうやらその場でゴロリと寝そべってしまったらしいのです。
 当時はソファも座椅子もなかったせいもありますが、なにしろ十二単は袷の重ね着ですから、十二着も身につけたら(そこまで着ないまでも)、ずっしりと重い。
 ですから、ホッとくつろぐと、どうしても十二単の重みでごろりと寝そべってしまうことになる。
 いや、くつろぐ時だけでなく、やんごとないお方のお傍に控えてご下命を待っているときの、つまり待機の姿勢が、寝そべった形だったらしいのです。
 なにしろ宮中の女官の仕事は、朝起きてから夜寝るまでフルタイムの長時間勤務ですから、十二単という重たい荷物を四六時中背負ったままだと、そうでもしないと、とても身体が保たない。
 たとえば源氏物語は、中宮のお局などで、誰か声のいい女房が朗読し、それをみんなで取り巻いて聞き惚れる、というスタイルで読まれたらしいのですが、そんな場合も、聞き惚れる女房たちは、朗読者の周りに思い思いに寝そべっているわけで、どうも中宮のお局というよりも、オットセイかセイウチが集まっている波打ち際の岩の上みたいな景色に思えますね。
 そんな場合、ご一緒に聞き惚れていらっしゃるやんごとない中宮さまも、御簾の向こうでやっぱりごろりと寝そべっておられたに違いないのです。

                               

 
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