連句「寒明けや」の巻 横丁のご隠居宮原昭夫公式サイト
連 句







 
 今回は捌き手に犬客さんを、執筆に西北さんを配して、長屋の連句会は石川町駅近くのLプラザで開かれました。ほぼ半分のところで、捌きを参森さんに交代していただき、犬客さんにも作句にぐっと参加していただいたのでした。

 とても久しぶりなので、楽しみな反面、不安も大きい。しかし、今回は新たな連衆を迎え、なんだかとても新鮮。よし、行くぞとばかりにマイクも二本たてて、一言も聞き漏らすものかと張り切った。もちろん、実録の記事を書くためである。が・・・いつもの11時間録音可能のちっちゃな録音機は4時間のところで、止まっているばかりか、もう一本のマイクからは直接パソコンに取り入れたはずが、システム全体をまだ使いこなせていないため、めちゃくちゃに失敗。犬の耳をしても聴き取れるかどうかの音量で録音されていて、もう、どうにもならない。

 そこで、「長屋の連句」実録は、今回はちょっと違うふうに紹介します。もともと、連句はやっている間だけの遊びで、記録に取ったりするものではなくて、終わればすべて終わりという、妙にさばさばした文芸なのです。だから、こんな事をするとちょっと連句の神髄に反するかとも思いますが、いけないことはとても楽しいの。
 誰が、どこが、捨てた句を拾い集めてそれを記録しょうとするでしょうか。そうです、歌仙のために作られ、捌き手に捨てられ、執筆に拾ってもらえなかったたくさんの句を、載せてみようと思うのです。
 そういうことができたのは、出勝ちで全員がほとんど休むことなく、作り続けたからなのです。作り続ける・・・捨てられた句には見向きもせず、ただ、新しい句を次々と。
今回はそういう記録です。
 ですから、毎回、選ばれていく道筋を辿る事ができます。辿ったからって元に戻れるわけではないのです。また、それは、歌仙が成功したのかを検証できる事でもありません。 連句はあくまでも場の文芸なのです。その時、その場でが、すべてです。なので、捨てられた句の記録を載せることはタブーを破ることかもしれません。しかし、重ねて言いますがしてはいけないことほどおいしく甘いものはないのです。
 ああ。罪深いことだけれど、今回はそういうふうに、捨てられた句を記録していくということで、連句会を紹介します。

 しかし、ここで、謝らなくてはならないのは、そういうふうに思いついたのは連句会が始まってしばらくしてからなので、はじめの部分は欠落しています。なんとか、後から拾うことができた部分もありますが、前半の八句目あたりまではちょっと記録としてもあやふやなので、その点はお許しください。山のような短冊の中から、拾っても拾いきれない。

 また、最後の三十句から先は違う事情により、落選句は載せません。これは、その都度説明しますが、連句の山場みたいなものと関わりがあって、いくつかのとてもゴージャスな場所があるのです。それは、二回ずつある月の座や花の座、それに、発句脇句もそうですし、とうぜん挙句もそういうことになります。そんなにおいしい場所は、当然みんなにばらけたい。出勝ちで戦ってきても、最後の六句あたりでその調整をするのです。長屋の連句はたいていそうするのです。そういうわけで、落選句もぐっと少なくなるのです。


 実録「長屋の連句会」
 
 事前に発句と脇句が作られ、第三句が宿題となりました。
 川を見て釣果語らぬ余寒かな        神谷犬客   春
   踏みしだかれて香る餅草         宮原西北   春

  かわをみて ちょうかかたらぬ よかんかな
    ふみしだかれて かおるもちぐさ

 みんなごそごそと宿題を出すが、なんだか、お昼に近づきつつあってお腹もすいています。丈高く転じる、というのが命題の第三句はお腹のすいたときはつらいものです。

3  鳥帰る空の青さを引きつれて        篠原風子   春
   とりかえる そらのあおさを ひきつれて
 
 見事に転じて、「て」止めも決まっています。出そろえばすぐに決まって、とりあえず風子さんはお気楽になり、お昼の支度にかかります。表六句までは飲食は控えるのが、一応長屋ルールなので、まだまだ食べられないのです。

 このとき出た句の一部です。(以降は★印)
 また、前句とのつながりをいちいち検証したい方のために、前句をこの辺りに入れます。前句には間違いないように、( )をつけますので、存分に悪徳の喜びに浸ってください。

   (踏みしだかれて香る餅草)
  ★風光る少年の目は空越えて
   玲瓏の春の嶺々ぬれ立ちて
   鳥帰る池の水面の静にて
   春光や休日の朝犬といて
   変身のかつらの痒し春めきて
   大空が雲と花とを光らせて

4   車窓のぞきて園児の笑ふ         添田鬼灯   雑
    しゃそうのぞきて えんじのわらう

 表六句は遊楽はだめで神祓釈教も避けねばならない。さらに、五句去りであるから、五句前まで登場したものは使うことができない。ここまでで、水辺、鳥、空、草木、食物も出た。そこのところを触れないようにしつつ、前の句から受けるイメージを繋げなければならない。旅でつながっているが、車窓をのぞいている園児の方に足場が移っているので、見事に切れている。すごくいい感じだ。

 (鳥帰る空の青さを引きつれて)
  ★ひとり暮らしの部屋の広さよ
   口笛吹きて煙草屋曲がる
ここに来たのは間違いかもね

5  お風呂場の鏡に月を映しをり        坂本凡煩   秋
   おふろばの かがみにつきを うつしおり

 月の句。最初の月である。表六句のお正座中のような行儀のよい月の句は難しいのだ。

   (車窓のぞきて園児の笑ふ)
  ★携帯に写して送る春の月
   月の出を待ちつつ日記書きあぐね

 そろそろ水辺は解禁になる。気象も解禁。鳥と乗り物、住居、天体は避けて。まだ出ていないのは、山、降りものもない。

6   鈴虫とまる日記のページ          川口松子   秋
    すずむしとまる にっきのぺーじ

 (お風呂場の鏡に月を映しをり)
  ★日記めくりて紅葉をはさむ
   芋食べ過ぎて体重気にし

 表六句は一応競いながらも一渡りしたいということで、先に取り上げられた方たちはリラックスして、目はお食事のテーブルへ。ここで残っているのは薄さんと松子ことすりきれの二人。この時には、まだ、参森さんと鹿彦さんは到着していないので。捌き手と執筆の二人がかりによる手取り足取りで、何とか納められた。

 わわわわわっ、ごちそうです。でも人気をさらったのは、犬客さん持参のママレード。自宅の夏みかんで犬客さんが自分で作ったというものです。

 換気のために窓を開ければ、風の音がすごい。虎落笛のようだ。ちっとも烈風が吹いているようには見えないのに。窓の外はこんな景色。風の音だけは恐ろしげである。開けては締め、閉めては開けて換気しつつ、連句会は続く。ここで、参森さんの参加。

7  落とし水背に聞きながら村を出る       小城 薄   秋
   おとしみず せにききながら むらをでる

  この辺りで、録音の不調に気づいている。しかしぐっと耐えて緊張のボルテージを維持しようと試みるが、みんなちょっと、飲食に心が移っている。
 恋してもいい? と薄さんが問えば、すぐに始まるのははしたないのでは? と西北さん。で、薄さんはその準備をしてくださいました。家を出ちゃいました。

   (鈴虫とまる日記のページ)
   ★なつかしきどんぐり山に隠れれば

 
8   手作弁当ロツカーの中             鬼灯  雑
    てづくりべんとう ろっかーのなか

 恋は淡く始まります。押し倒しは駄目ですと、西北さんが厳しく。体も駄目ね、背中が出たからと追い打ちも掛けられる。恋って体でしなくちゃね・・・・薄さんのつぶやき。昼食のざわめきも一瞬にして静まり、本格的に競い始めます。

 西北さんは黙々と作句中。

 一同も黙々と。

 (落とし水背に聞きながら村を出る)
★手紙出すのをまだ躊躇ひて
 三十路にいりていじめたくなり
 影ふたつあり道はわかれて
 貝殻を渡したくない憎い人
 大家の娘口紅つけて
 ポップコーンで洋画楽しむ
 しめし合わせて赤道直下

 初々しいのから、初々しくないのまで。  
 西北さん絶賛の初々しい句「手紙出すのをまだ躊躇ひて」は、打越で日記にさわるということで、残念。「影ふたつりあり道はわかれて」は前句につきすぎ。
「しめし合わせて・・・」と「大家の娘・・・」「三十路にいりて」は大受けしました。

9  かくれんぼスカートの端のぞかせて        松子  雑
   かくれんぼ すかーとのはし のぞかせて

 13時30分であります。アルコールが細胞に染み渡り、もう、ここまできました。裏の三句目、恋の半ばです。もう、抱きついてもいいのね、と質問が。合唱するように、はいっ!と参森さんと西北さんが・・・。身ごもってもいいのかと、薄さん。それは後始末でしょと、西北さん。大人の会話。

 前句との付き具合がわからないと凡煩さんに問われた西北さんは、こう教える。
「今日よりは明日が好きよソーダ水」みたいな。二物衝撃は俳句が連句から取り入れたもの。でも、ぶつかっても何も生み出さないのはこまるけど。
 犬客さん、ここで宣言をする。3分以内っ!
 ここで、鹿彦さんが参加してメンバーがそろいました。
(さらに、すりきれは録音の失敗に気づき、本格的に取られなかった句の記録を必死に始める、気づかれないように。かなりどきどきしていて、上の空となっている)

   (手作弁当ロツカーの中)
  ★ここでしよお天とうさまにみられても
   落とされしハンカチ拾ひ寝室へ
   キリン豹ゴリラあなたのコトバ待つ
   さよならかまた今度ねか迷ひをり

 子どものはかわいいけど、おとなのかくれんぼは嫌いだなあ、と西北さん。衣服、ゲームはこれで使うことができなくなりました。

10  めだちたがりのあのホリエモン        秋山参森  雑
めだちたがりの あのほりえもん

 突然、時事がきた。恋は淡いまま彼方へ消える。

 (かくれんぼスカートの端のぞかせて)
  ★ずぶぬれになりあの子現はる
   うす壁もれる愛のささやき
   理科実験室に待ち人来たる
   泣く子あやして妻帰り待つ
   すずめばかりが竹藪揺らす
   あれをしたのがチカンのはじめ

「理科実験室・・・」でわく。前句のかくれんぼと、めだちたがりの付き具合がいい。

11  ストリートライブ華やぐ六本木         犬客  雑
    すとりーとらいぶ はなやぐろっぽんぎ

   (めだちたがりのあのホリエモン)
  ★古狸仙人の街学びおり
   くやしくて日の高いのにもう酔ひて
   鬱病の患者ばかりが増えて来て
   手品師のなり小さくて人だます
   行く末は卓球台の玉のごと
   ポイントを集めて楽し小市民

 ここで、一気に地名、音楽がでる。納得がいくし、よく転じている。しかし、いっぱいいろいろ入れているから、後でみんなを困らせるなあ、と鬼灯さんのつぶやき。

12   似顔絵描きの大あくびして          風子  雑
     にがおえかきの おおあくびして

 室内はまったくの静寂。もう、鉛筆の音がする。季寄せをめくる静かな音も。隣の部屋の声が聞こえる。うーむと、西北さんの声。来るときはどーっと来るけど、という独り言。
 あと3分ですという静かな声・・・犬客さん。

 (ストリートライブ華やぐ六本木)
  ★この身の老いと折り合いつけて
   アナウンサーは誰も鼻声 
   パンクタイヤを誰が代えるか
   お稲荷さんの鳥居小さき
   青き眼をして聞くなにわ節
   廃坑に落つ黒き雨だれ
   駅前の樹に尾長群れゐて

 尾長が群れるか群れないかで、西北さんは犬客さんに指摘される。じたばたする。どれもおもしろすぎて、すべては捌き手の手によって操られていく。

13  島の鰺干されて昼の月浮かび          参森  夏  
    しまのあじ ほされてひるの つきうかび

 月の座です。夏です。
 月代、産月、月給、月謝などと、月のつく字というだけではだめ。

   (似顔絵描きの大あくびして)
  ★終電で帰る身包む夏の月
   短夜の河畔三日月褪せてゆき
   夏の月明かし継子の身を嘆く
   何となく床に臥しをり夏の月
   月明かり守宮の影を留めおき
   扇ぎても暑さは増して夏の月
   寝冷え子の枕を月が照らしをり

 選ばれた句は、すてきすぎ。俳句だ、とか、一本立ちだあ、とか、いくらいってもむなしいだけ・・・。あとは、いかに崩すかだと、一同鼻息荒らし。ふがふがとする。一人、西北さんのつぶやきが・・・うーん、だめかあー。もう、次を作り始めている。そして、挫折していた。

14   孑?ばかり瓶に溜まりて          両角鹿彦  夏
     ぼうふらばかり かめにたまりて

 出ていないものを一々挙げてなるべく多くを歌に織り込もうとする。一通り終わると、季寄せをめくる音が部屋の中の唯一の音となる。犬客さんのあと3分という声がして、誰も応えず、さらにページをめくる音と、短冊を走る鉛筆の音が続く。はい、では、と犬客さんが言い、ため息が溢れる。出ない人に、一々確認をする犬客さん。毎回出すのは厳しいのだ。

 (島の鰺干されて夏の月浮かび)
  ★夏猫眺む毛づくろいして
   玉汗光る少年の頬
   命雨降る天神祭
   昼寝の夢は宇宙旅行か
   牛のよだれに透ける夏富士
   古びし地図で登山計画
   日焼けの肩を惜しみなく見せ

「牛のよだれ・・・」で、わっと沸く。「古びし地図・・・」には、西北さんが思わず危ないなあと。格調高い句が選ばれたが、ぼうふらと読むのかと驚く面々。驚かない人もいたけれど。(こうして打っている今も、この字が出なくて手書きで呼び出している)
 確かに島には瓶が置いてありますよね、と風子さんが遠くを見つめる。

 落ちた句もすばらしい。捌き手の美意識で仕上げられていく。ちなみにここでの捌き手犬客さんの句は例の「牛のよだれ・・・」。

15  電脳にトラブルわが家多事多端         西北  雑
    でんのうに とらぶるわがや たじたたん

   (孑?ばかり瓶にたまりて)
  ★何事もなむあみだぶつありがたや
   嫁さんは掃除しすぎのきれい好き
   呑みすぎて座敷童子に笑はるる
   そのことにこだわりしまま引越す
   手鏡を握りて父は出社する

 西北さんのところは年中ですね、と薄さん。僕と薄さんでは、どっちが電脳に強いのでしょうかと、西北さんが問えば、答えは合唱となって、薄さんに決まっている!でした。ここでしばし、西北さんに掲示板の書き方を指導する薄さんと、風子さん。

16   血肉となりしケータイの音         鹿彦  雑
ちにくとなりし けーたいのおと

 あと3分の声が。すこし疲れが出てきて、飲食に精が出る。出具合が悪いと叱られる。一同、神妙に作句。

 (電脳にトラブルわが家多事多端)
  ★シンガポールと時差一時間
   菜切包丁研がねば切れず
   介護保険を申し込みをり
   水眠亭は電気止められ
   嫁の悪口息子に告げて

 携帯が生活の一部となっているという感じがよく出ています、と捌き手犬客さん。あっさりとしたいところなので、やり句でいい具合です。飛躍が少なく、あまり転じない。歌仙の中には、こういう句もあるといいのです、と執筆西北さん。あんまりねじれすぎると、どろどろになりますから・・・と意味不明の言葉も。

17 靴下の底の花びら見せあひて          松子  春
   くつしたの そこのはなびら みせあいて

 花の座です。ちょっと大舞台なので、西北さん、犬客さんの発句脇句組、凡煩さん、参森さんの月組は、この回はご遠慮をいただく。となると、参加する人が少ないのです。吹きだまりだ・・・と西北さんの言葉が・・・いつものメンバーじゃん・・・と、つい薄さんも。時間ですの声がする。出が悪かった。

   (血肉となりしケータイの音)
  ★帰宅子の髪にひとひら桜舞ひ
   観桜に招かれたりと便り来て

 恋が始まった模様です。見せ合った後、どうなるのだろうかと西北さんは心配する。

18   春炬燵からいまだ出られず         凡煩  春
     はるごたつから いまだでられず

 (靴下の底の花びら見せあひて)
  ★亀泣くと知り人の集まる
   ミニバンの中亀の声聞く
   雨の動物園の静けさ
   四月の甘さ口にひろがる
   女王蜂去り静かなる午後
   牛にまたがり春惜しむ婆
   入学試験に遅刻するなり

 炬燵の中でいちゃついているのだ、と納得する。

19  蜃気楼告げる人なく消えにけり        薄  春
    しんきろう つげるひとなく きえにけり

 ちょうどここで、半分、午後四時である。名残に入る。ここから裁きを参森さんに交代する。犬客さんにも飲食を楽しんでいただきたい。

   (春炬燵からいまだ出られず)
  ★若鮎来いドンキホーテが町川に
   リストラを告げられし夜の啄木忌
   七色の音ではじけししゃぼん玉

 ここで、様子をお知らせすると、空いたワイン三本。日本酒四合瓶残り弱。参森さんは禁酒中なのでありました。

20   三蔵法師も汲みしオアシス         鹿彦  雑
     さんぞうほしも くみしおあしす

 (蜃気楼告げる人なく消えにけり)
  ★マンモスの牙白く尖りて
   いつまでも供花の残れる墓ありて
    (あははは、こういうこともあります。短句と長句、間違えちゃったのね)
   求職活動再開せねば
   散骨終えて光る水脈曳き
   葡萄酒の赤午後のまどろみ
 
21  故郷の近きになりて梳る           薄   雑
    ふるさとの ちかきになりて くしけずる

 (三蔵法師も汲みしオアシス)
  ★分身の術を使ひて球を打ち
   はるけくも来たり斜陽に影曳きて
   パイプライン作る機械はラクダが運び
   週末はジムに通ふと決めてをり

22  馬小屋の裏宝隠して             鬼灯  雑
    うまごやのうら たからかくして

 (故郷の近きになりて梳る)
  ★外泊をして父に殴られ
   踊り出したる老若男女
   老いて減らない酒の分量
   無人野菜の小銭を盗み
   六文字をば石に刻みて
   魚の目ひとつ疼きはじむる

23 初時雨返事二つを書きあぐね          風子  冬
   はつしぐれ へんじふたつを かきあぐね

   (馬小屋の裏宝隠して)
  ★粉雪のまつげに重きニューハーフ
   風花を待ちて軒下とんびをり
   椰子の上星降ってゐるクリスマス
   人待ちのポインセチアに雨滴急
   雪女赤子の声に振り向かず
   天地のむすび給ひし霜柱
   約束を忘れし頃に雪女郎

 うまいっ!の声あがる。返事ひとつだと、もっといいけど、俳句になっちゃうね、と犬客さん。外野は二つは欲が深いと、うらやむ。

24  風呂吹きの湯気世は事もなし          西北  冬
    ふろふきのゆげ よはこともなし

 (初時雨返事二つを書きあぐね)
  ★結論出でず熱燗を酌む
   石焼きいも屋素顔かくして
   女むっつりおでん酒酌む
   早足に過ぐ苦き達磨忌
   揚げ鶏にママレード塗り宴果てず
      (あはは、誰でもやっちゃう・・・長短間違い)

 西北さん、世は事も無しとは、あんまりな。

25 きな臭き畑帰りの夫の鍬             鬼灯  雑
   きなくさき はたけがえりの つまのくわ

    (風呂吹きの湯気世は事もなし)
  ★「幸いすむ」と読みしあの日々
      (きゃっ、長句なのにぃ〜)
   北国へ夜行列車で追って行く
   いまさらに産みし小猿をかくせない
   初枕死に装束の色と成り
   はずされしイアリング落つ床の上
   菩提寺に愛人と妻対峙して
   糟糠の妻の肉置き夜が濡れ

26  みられちやつてもかまわないわよ        参森  雑
    みられちゃっても かまわないわよ 

 (きな臭き畑帰りの夫の鍬)
  ★どっちへ行くか誰もわからず
   行く先秘して焼香に出づ
   このごろ妻の化粧巧みに
   唇すぼめてたこいかほたて

27 ギツタンのあとバツコンの間が空いて       犬客  雑
   ぎったんの あとばっこんの まがあいて 

   (みられちやつてもかまわないわよ)
  ★夢恋ひの始め辿ればビッグバン
   しばらくは成り行きまかせケセラセラ
   今日からは貞操捨てて輝けり

28  ひよつこり小屋の壁もくづれて         参森  雑
    ひょっこりこやの かべのくずれて

 (ギツタンのあとバツコンの間が空いて)
  ★戸を開くより山の端が暮れ
   バンドネオンのジョーも死んだわ
   ねずみ男の愛しやどり木
   千秋楽のドンペリの色
   終電車待つ黒き人影
   差し出す右手かえす左手

29 月輪の丸きを慕ふ櫟の実             鹿彦  秋
   げつりんの まろきをしたう くぬぎのみ
 月の座。遠慮組は遠慮して、競っていただく。残る特別席は花の座がひとつと挙句。

   (ひよつこり小屋の壁もくづれて)
  ★若き日の栄華肴に月見酒
   満月が忘れし鍬の影ひきて
   逆上がりする子の背に月のぼる

30  横向きて飲る朝鮮濁酒             鬼灯  秋
    よこむきてやる ちょうせんどぶろく

 (月輪の丸きを慕う櫟の実)
  ★秋冷ややかに古池の句碑
   新走り酌み村人となる

 ここから「名残の裏」に入る。静かにすばやくおさまる感じになりたいところが・・・タイムアップ。会場を借りているのは午後八時まで。残りの煮物を食う者、片づけに入る者。それぞれに、時計をにらみつつ、一分も無駄にせず、八時ジャストに会場をすっかりきれいにして、退場する。一人、会議机を雑巾がけする犬客さんの姿に、神々しさを感じる女性陣!

 ここから会場を石川町駅横のビル地下の居酒屋へ。生ビールや瓶ビール、さらにあれやこれやぐびぐびしつつも、箸袋には次の句が書き込まれていく。

31 人魚姫岩に座りてそぞろ寒            西北  秋
   にんぎょひめ いわにすわりて そぞろさむ

32  鎮めの鐘のいづこからして 松子  雑
    しずめのかねの いずこからして

33 縄文の焔をめぐる語り部に            鹿彦  雑
   じょうもんの ほむらをめぐる かたりべに

34  草加越ヶ谷千住の先の             犬客  雑
    そうかこしがや せんじゅのさきの

35 風すこしゆらして路地の桜咲く          風子  春
   かぜすこし ゆらしてろぢの さくらさく

 そしてとうとう挙句が・・・・
36  自転車駆れば春は光れり  薄   春
    じてんしゃかれば はるはひかれり

 名残の裏の六句は花の座を風子さん、挙句を薄さんにおねがいして巻き上げた。
 記録がうまく取りきれなかったことと、記憶が途中からおぼつかなくなったことで、なんだか、実録ともいえないふらふら記事になってしまった。
 しかし、今までにない短時間で巻き上げられたことと、出勝ちというやり方であったため、ほとんど作り続けていたというのも快感だった。どの句も、おもしろく、犬客さんと参森さんの二人の捌き手の手際のよい導きで、長旅を終えた気がした。捨てたものには心を残さず、前だけ向いて、私たちは作り続けたのだけれど、こうしてそれを広げてみると、やはり、なかなかよいものもたあんとあったと・・・自画自賛しちゃおう。


報告すりきれ

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