連句「寒明けや」の巻 横丁のご隠居宮原昭夫公式サイト
連 句






歌仙「寒明けや」の巻





と き  2003年4月6日          
ところ  カフェすばる             
連 衆  貴紫、西北、参森、薄、白舟、鬼灯、芽笹




















 桜が満開の藤沢、休日の「カフェすばる」(福祉作業所)をお借
りして横丁の歌会が催された。各自甘いものやらお酒やら、なんや
かんやをぶらぶらさせて、集合したのは午前11時。歌会のお楽し
みは、純粋に歌を詠むこと。でも、時とともに深まりゆく酔いに身
を任せつつ、心の奥深くからわき出る言葉を愉しむこともおつなの
です。そのためには、堅苦しい表六句を早く脱しなければ、それら
のお楽しみにありつけない。前回の歌会の時の表六句にだいぶ時間
がかかったことを反省して、事前に少し策が練られた。     
 表六句超スピード脱出計画です。まず、発句と脇が用意されまし
 た。それをもとに、第三句が宿題として参加者に課せられたのです。
提示されたのは4月3日のことでした。それから3日後、4月6日
が歌会なのでした。                     

1 寒明けや思ひ思ひの靴の色         西北(春)

2 園児らの唱のどかなる頃          参森(春)

 
あいさつは朗らかであったが、緊張は隠せない。では、と参森さ
んが言い、みなさん、と西北さんことご隠居が続けます。長屋組は
着席した尻も落ち着かぬうちから、宿題を広げる。人はそれぞれで
ある。一句を抱えてくるものあれば、たくさん作ってくるものもい
る。しかし、いずれも宿題には真面目なのである。態度も折り目正
しい。なにせ表六句の羽織袴のまだお正座中である。丈高く転じる
つもりである。そのつもりで、それぞれ短冊に書き込み、参森さん
へ手渡す。短冊は無記名である。茶をすすりながら、評決を待つ。
 初めが肝心だとばかりに、難しい漢字で軽くジャブを出してみた
りもする。宿題に対する報復かと西北さんが愚痴る。読みを訊かれ
て、つい応えて姿を現したりするのも楽しい。今日の実質的な最初
の句となるものが決まった。この句に引き連れられて私たちは楽し
い旅をすることになった。                  

3 春の日に珈琲の香のただよひて       貴紫(春)

 今回初めて参加なさった貴紫さんです。お召しになった紫のカー
ディガンが趣を増してモダンなイメージです。いっぺんに座が和む
句でした。                         

 ここからは膝送りになる。前回黒舟であった私すりきれは名を改
めて白舟に。早々に指名される。早くやるほうが縛られるものが少
ないと前回に学習したことを思い出して、顔には出さねどしめしめ
と内心喜ぶ。無季。花と月は絶対避ける、と西北さんが大きな声で
ささやく。ところが軽やかに転じるはずの四句目がノッキングを起
こして進まない。周りでは、制限時間をどうしようかとか、次の順
番を決めたりと騒がしい。およそ10分で絞り出すように作った句
は、恋誘いぽくて却下。とうとう15分過ぎて、西北さんキーワー
ドを探し始める。下の七七は三四か五二と分けるとなんかいいのさ
と、参森さんにアドバイスを受けるも、出しては却下の繰り返し。
白舟苦しむ間に、全員自己紹介も済ませて和気藹々と茶をすする。
はや時間は30分経過して、やっと出来上がった。まさに、今回一
番の手が掛かる句であった。                 

4 英語の辞書の赤き背表紙          白舟(雑)

5 見あぐれば共に歩める月ありて       芽笹(秋)

 次は月の座。芽笹さんです。おしとやかで大胆な方。     
 句に人が入りました。恋がらみでないかとちゃちゃも入るが、芽
笹さん違うと言い切り決まる。格調高くなってきたと一同納得。赤
い辞書を持って夜道を歩いているのか。青ざめた影が目に浮かぶ。

6 コスモスの下猫顔洗ふ            薄(秋)

 薄さんは長屋組というよりもご隠居たちの連句のお仲間。   
 便箋の挿し絵のような情景だなと西北さん。コスモスがかわいい
と女性陣の声あがる。視点が空から地面へと移った。      

 ここからはもう崩れていいんだけれど、待ってましたとばかりに
恋をするのも恋急ぎではしたない。はしたなくてどこが悪いという
意見もあるがねと、西北さんは熱っぽく語る。最初の恋のシリーズ
は若い人の清純な恋。名残の恋は濃密でよい。それでね、最初の恋
は直ぐ別れてもらっちゃ困る、と注文も多い。今回の会場には黒板
がない分、口数も増して言葉も冴える。その口を潤すように、ぶら
ぶら下げてきたものの封が切られる。さあここからが、極楽歌会で
ある。                           

7 水鏡紅さす少女爽やかに          鬼灯(秋)

 膝は崩したものの、まだ清らかな場である。少女は爽やかで水鏡
の揺らぎも感じられる。猫は顔洗う、隣で少女は紅を引く。中原淳
一の世界だと長屋組大喜び。乙女チックである。参森さんに恋を託
す。                            

 今回は全員参加のわあわあ歌会である。西北さんも参森さんにも
本格的に参加していただく。どう出るかと見守る中、するすると出
た一句。                          

8 明日はアトムの誕生日なり          森(雑)

 一同ため息。なるほどである。明日は2003年4月7日。愛息
とびおを亡くした天馬博士がアトムを誕生させた日であった。しば
らくアトムの世界に長屋一同たゆとうが、突然はっとしたように恋
じゃないのかと詰め寄る長屋組。いいんです、と西北さん応援。し
かし、この句にどうやって恋をつけるのか。つけにくいねえと西北
さんもポツリ。                       

9 いつの日かつのる想ひのビッグバン      紫(雑)

 やっと、般若湯も染み渡ってくる。貴紫さんはすごい集中力で考
えている。                         
 短冊が読み上げられると、弾けたあと声があがり、一同ボーッと
なる。アトムの恋ならこのくらいこなきゃあ、釣り合いがとれない
と鬼灯さんが言う。しかし、しずしずと始まる恋というのはどこへ
行ったんじゃと大笑い。いやまだまだ青年の恋と参森さん。後半の
中年の恋が怖い気がする。アトムの恋は宇宙規模じゃなければと一
同納得。                          

10 をんな上位の駆落ちプラン          北(雑)

 あっははははは、と恥じらいもなく大きなお口で爆笑、長屋組。
でも言えてると納得。                    
 次は白舟さんだからゆっくり飲もうと、憎まれ口も出る。確かに
今回も時間ばかりかかる。なぜか、楽しげにおばあちゃん談義が始
まり、はっきり言ってうるさい。声がデカイのは意識的であるとふ
んだ。                           

11 探偵をしてみたくなる男ゐて         舟(雑)

 なんだか男の挙動が怪しい。電柱の陰に隠れて探偵のように偵察
をしたくなるような男をもってしまった。髪結いの亭主か。ツバメ
か。西北さんはストーカーしたくなる男心の切なさもあると、ほろ
りとさせることも言う。                   
 つけにくそうと芽笹さん。まあまあ、ご一献と参森さん。芽笹さ
ん黙々と短冊に向かっているのに、話しかけられてついつい返事を
する。昼間の酒は利くとみな言いながらも、どなたからも酔いが感
じられないのはどうしたことか。               

12 青いドレスでステップを踏む         笹(雑)

 雑音に負けず、きれいな句ができた。            

13 端居して読経かすかに眉の月         薄(夏)

 月の座。夏の月です。この辺で恋は終わりです。       
 廊下とか部屋とかの端っこに座って、かすかに聞こえる読経を音
楽のように聞いている。空には細く柔らかな月がある。すてきな句
ができた。俳句になっているようだね、上手すぎて、次の人が入り
 込める空きがないかなと西北さん。案ずるより産むが易しであった。

14 正客のため若竹を削ぐ            灯(夏)

 鬼灯さんは茶道をなさっている。若竹を使って菓子や料理を採る
箸を削ぐ。夏のお席には若竹の瑞々しい青が生え、客をもてなすと
いう気持が伝わる。前の句と続けて詠むと、さらに深まていく。 
 なのに、次の句を巡って、茶室でなにが繰り広げられたかが話題
になり、とんでもない妄想が場を覆う。茶室には男女が。コハゼは
四枚がよろしい・・・・らしい。男が脱がせるのがいいか、女が脱ぐの
がいいのかという辺りで、それぞれ願望で胸を膨らます。    

15 なにゆゑぞペースメーカー電池切れ      森(雑)

 説明のいらない一句であった。若竹は命がけで削いだのか、それ
ほどの相手だったのか。それともなにかが起こったのか、茶室で。
こはぜとか・・・・。あの静寂の世界はこう飛躍する。てえへんだ、救
急車を。この恋は成就しなかったのかと西北さん言えば、あの世か
ら会いに来ることもできると貴紫さん。うおー、なるほどである。

16 大手を振って軽々と行け           紫(雑)

 貴紫さんは軽くあしらって、一瞬にして解放された。     
 次は花の座である。初めての花の座である。でも、花吹雪はやめ
てください、先にも花はありますから、という西北さんの言葉。恋
の気分は漂っていてもいいと西北さんと薄さん。狂い咲きがいいと
外野はうるさい。                      

17 仕込みっ子片ひざたてて花合はせ       灯(春)

 こってるなあと参森さん。西北さんもほーおっとため息。見習い
の少女のたてた膝頭が見えるようだ。花合わせは花札のこと。仕込
みっ子にたいする応援歌かと西北さん。            

18 きのふの株価四月馬鹿なり          舟(春)

  きのうの株価まではいくが、そのあと外野に揉まれ、助けられる。
四月馬鹿で一同しばし遊ぶ。突然、次が自分の番だと気づく西北さ
ん。キーワードはなんだろうと首を傾げる西北さんに「馬鹿」とつ
ぶやいたのは誰か。                     

19 いぬふぐり一夜の夢の醒め果てぬ       北(春)

 なるほどと、うふふの複雑な反応あるも、株価を乗り切る。  

20 防毒マスク目だけ動きて           薄(雑)

 現実は厳しく、手に入りにくいという防毒マスクをつけた人の、
厳しい目を想像する。                    

21 駱駝のり砂漠の女追ひかける         笹(雑)

 さらに、それは砂漠の女で、駱駝にのって追いかけていくところ
だという。                         

22 鎮守の森に五寸釘打ち            森(雑)

 行き着く先はここだったのか。一同唖然となる。       

23 丹頂の呼びあひながら帰りゆく        舟(冬)

 こんなにも平和な愛がありながら。             

24 永らへし身に川涸るる地よ          北(冬)

 格調高いなあと参森さん、頷く長屋組。しかし、このあとは恋の
 句である。悶絶する芽笹さん。なんとかなるものならとがんばるが、
外野は自分の恋の自慢でうるさい。              

25 原野にて井戸掘りあてて暮らしたき      笹(雑)

 地を這うような恋を考えると芽笹さん。這うよりさらに深く潜っ
て、井戸掘りあてて暮らしたき、ときた。金塊が掘り当てられるか
も知れない。                        

26 風に君見てしかと立つ我           紫(雑)

 覚悟のほどが知れるね、と西北さん。風に吹かれて男たちは次々
と行くけれど、我はしっかり立っているという強いイメージが伝わ
る。また、男はひとりであるとも考えられる。日々に変わる男、い
いときもあれば堕落したときも私は変わらないという意味もある。
観音か、菩薩かとどよめく男性、ふたりだけだが。       

 名残の裏はね、もう待たせないでね、適当にやってねっていうの
が名残の裏なの。さらっとね、と西北さんはまきにかかる。   

27 下がりたる乳房の海女は同い年        薄(雑)

 はっと息を吸う音が出た。塩の匂いがする。乳房の描写に同い年
がきいている。                       

28 レジに並びて深呼吸する           灯(雑)

 閉まりかけのコンビニのイメージだと鬼灯さん。軽やかによく転
じていると西北さん。                    

29 観月にそれぞれの味持ちよりて        舟(秋)

 あるあると一同頷く。気がつけばすごいスピードで巻いている。
外は暗くなりかけて、窓からは月が見えた。今日は巻き上げるぞと
強い意志で望んだが、始まってみれば、時間のことなどみな忘れ、
だだ作る人とちゃちゃを入れる人に別れて、ご隠居組も長屋組も入
り乱れての大騒ぎとなる。ちょっとは趣もあるが、あえていうなら
ば華やぎの方が勝っている。                 

30 新米強くかみしめてみる           笹(秋)

 芽笹さんはお米の国の方。新潟出身です。          

31 初孫の運動会を羞らひて            北(秋)

 私小説風です。指摘されて照れる西北さん。         

32 ねぢり鉢巻一心太助             灯(雑)

  すごくいい感じです。キーワードは西北さんそのものでしょうか。

33 朝市の呼び声高き八百屋あり         森(雑)

 尻っぱしょりの心意気が朝市の八百屋に匂いました。     

34 縞のさいふの銀の鈴鳴る           舟(雑)

 名残の句にふさわしいスピードです。            

35 花盛りさざめく笑ひ他に伝ふ         紫(春)

 楽しかった歌会のイメージを貴紫さんが花に託してくださいまし
た。                            

36 乗合船に霞かかれり             薄(春)

 結句は薄さんです。今日の歌会にふさわしい楽しい句でした。 

 みなゆらゆらと揺れて、春の夜に、またねまたねと別れました。
今回も、参森さんに手取り足取り助けていただきました。歌会の創
作においてもですが、企画準備、そして最後の最後までありがとう
ございました。(記事 すりきれ)              

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